2011年6月20日月曜日

リアリズムを読む「覇権支配システムー力の均衡と世界の民主化ー」(吉田亮太著、ユニオンプレス刊)

奥山真司氏のブログやAmazonのレビューで「攻撃的」と評されていた吉田亮太氏のリアリズム論「覇権支配システムー力の均衡と世界の民主化ー」を早速購読した。

読後の印象としては、吉田氏のリアリズム論は決して「攻撃的」なものではなく、その論調とは逆に、非常にクールかつスマートなもののように感じた。

吉田氏の結論を私なりに換言すれば、「リアリズムにとっては、米中露という大国間のバランス・オブ・パワーを適切に管理することこそが新たな世界大戦を予防し現在及び将来の世界平和を維持するために最も重要なことであり、この目的の前ではリベラリズムが主張する自由民主主義の発展や人道問題などは『コーヒーショップの泡』のような瑣末事に過ぎない。しかし、民主主義国の覇権国であるアメリカはその政体の制約により国家のパワーを自由に行使することが出来ず、そのことが非民主主義国である中露との勢力均衡を図る上で大きな弱点となっている。したがって、アメリカをはじめとした民主主義国を制約から解き放ち、国家のパワーを自由に行使できる存在に変化させなければ、世界のバランス・オブ・パワーは危険な状態に陥るであろう」というものであり、そのために必要なこととして吉田氏は「世界の民主化にノーを」唱えよと主張している。

個人的には本書の「第9章 世界の民主化にノーを」が最も刺激的な論考であったものの、「第10章 「新しい中世」の中で」における「新しい古代」や「新しい近代」といったアイディアは未だ生煮えの議論であるように感じた。吉田氏にとっても「リアリズムの現代的展開」に関する議論は現在進行中のものであるのだろう。

本書で示された吉田氏の認識を踏まえれば、今後も日本は覇権国アメリカの庇護の下で東アジアにおける勢力均衡に汲々とするほかない立場であるが、個人的には、バランス・オブ・パワーの維持ではなく劇的変化を企図する中露の攻勢を前にして、日本は果たしてそれだけで有効に対処することが出来るのか疑問に感じるところもある。

いずれにせよ、日本リアリズム界(!?)に突如として彗星の如く現れた吉田亮太氏の激辛リアリズムを本書で学ぶことは、日本のリアリストにとって義務教育に等しいと断言できる。

本年度リアリズム新人賞確定です。

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「覇権支配システムー力の均衡と世界の民主化ー」(吉田亮太著、ユニオンプレス刊)

目次
はじめに
まえがき 「冷戦思考」批判を超えて
第1章 議論の諸前提
第2章 覇権とは何か
第3章 ハードパワー
第4章 ソフトパワー
第5章 力の評価と外交について
第6章 国際法廷
第7章 覇権に対応する
第8章 各地域のケース
第9章 世界の民主化にノーを
第10章 「新しい中世」の中で
あとがき 日本における政治論の制約と本書の立場について
索引

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